ちゃんと生きるために、大切な順番は“食住衣”。荻窪の本屋「Title」辻山さんに聞く、心地よい暮らし方

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今年1月にOPENしたTitleは、街の本屋さん。

スーパーの買い物袋を提げたまま、ぶらりと立ち寄るおじさん。
おじいちゃんと一緒に来た、常連客らしき5歳くらいの男の子。
年齢も仕事もさまざまな人が、ここを訪れます。

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まるで、昔からこの街にあったかのように、Titleは荻窪という街に馴染んでいます。それでいて、古臭さを感じさせないシンプルでおしゃれな店内。こんな素敵な本屋の店主さんって、どんな方なのでしょう?今回は、店主の辻山良雄さんに、子供の頃の話から、普段の生活で大事にしていることまで、伺いました。

子供のときの愛読書は「いやいやえん」

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―辻山さんご自身は、小さい頃どんなお子さんでしたか?

辻山 どちらかというと、大人しい子だったと思います。家でも、そうでした。野球盤ゲームで遊ぶのも好きで、1人でスコアつけて遊んでいましたね。凝り性といったら凝り性かもしれません。割とそういうのを地味にやっていたタイプです。

人と居るのが嫌というわけでもなく、なんとなく一人でいるのが好きなタイプで。それは今でも変わらないと思います。

―子供の頃、家の近くに「Title」のような本屋さんはありましたか?

辻山 生まれてから19歳まで神戸にいたのですが、小学生でも歩いていける距離のところに、ここと同じくらいの大きさの本屋が2~3軒ありました。暇な時にたまに行ったりしていましたよ。当時は、今と違って街にも本屋が多くあった印象です。

―その本屋の店主さんは、どんな感じの方でしたか?

辻山 本屋の店主さんとは、ほとんどしゃべったことはなかったですね。子供の頃は、本屋のおじさんに限らず大人はちょっと気難しそうで「怖い」という印象でした。

―確かに、大人へのイメージってそんな感じでしたね。本屋のおじさんは、くだけた感じの人よりも気難しそうな人が多かったような。その頃、よく読んだ本はありますか?

辻山 中川李枝子さんの「いやいやえん」は、何回も読みました。「いやいやえん」の話に出てくる「近所の地図」を真似して、家の近所の地図を作った覚えがあります。

あとは、子供が読む「学研まんが新ひみつシリーズ」。動物のひみつ、電気のひみつ、地球のひみつ……とさまざまなひみつの学習漫画が、100巻近くあったと思います。それが好きで、何回も読んでいました。こういった子ども向けの図鑑は昔からありますが、時代と共に改訂を繰り返し、現代の子どもでも読みやすいようアレンジされていますね。

外国文学からアート、そして哲学へと繋がる

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―本格的に本を読まれるようになったのが10代後半ということですが、最初に好きになったのはどんなジャンルでしたか?

辻山 最初に好きになったのは、外国文学でした。予備校に行くようになり、行き帰りの電車で読んでいたのですが、サリンジャーのナイン・ストリーズが印象的で。

外国という日本とはまた違った世界の発見だとか、自分が使ったこともないような言葉を使っているという点は、面白さがありますね。ニューヨークのストリートだとかプールサイドにいるといった、日本とはまるで違う世界や固有名詞が、当時の自分にとってとても新鮮だったのです。

サリンジャーをきっかけに、名作のドストエフスキーやカフカなど、新潮文庫でもシリーズになっているのを片っ端から読んでいました。大学に入ってからは、村上春樹さんに始まり、そのうちアートが好きになると芸術の作家さんが書いた作品集を読んだりと、興味がどんどん繋がっていきました。哲学の本も読んだりしていましたね。

―Titleに入ると、まず左手すぐにファッション雑誌、そのすぐ右側には料理本、そして子供の本と興味・関心がゆるり移り変わっていくようなレイアウトが心地いいなと思ったのですが、そういったことも意識されたレイアウトなのですか?

辻山 はい。そういったことは、考えています。

例えば、暮らし・子供などはひと続きだし、・文学・哲学・芸術みたいなのもひと続き。それがバラバラになっていると、切り離されているようでなんだかしっくりこないのです。狭い空間ですからかっちりと分けるわけではありませんが、人の興味をゆるく繋ぐことができるレイアウトにしたいと思っています。

無理はしない いやな仕事はしない

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-次に、辻山さんご自身について伺います。「よりよく生きるために」大事にしていることは、どんなことですか?

辻山 いやな仕事をしないということです。生きていくためにはお金も大事ですけども、大切にしている心情などはなかったことにできないもの。わざわざ自分のお店を作ったのですから、やりたいようにやるのが楽だし、逆に楽じゃないと続かないですね。

―「違和感」があることは、やらないということでしょうか?

辻山 そうですね。その感覚に、近いかもしれませんね。

きちんとしたものを食べて、空間をきれいにして、心を放つ

―「Title」のテーマである「生活」といえば、やはり「衣・食・住」です。辻山さんが大事にしている順番に並び替えると、どうなりますか?

辻山 難しい質問ですね。「食・住・衣」の順番でしょうか。衣に関しては、あまりこだわっていないです。

やはり、一番大事なのは、「食」だと思います。たとえばいつもジャンクフードなど食べていると、考えがおざなりになってしまう。ちゃんとつくられたものは手間がかかっているので、その分食べたときに複雑でいろんな味がするのです。そういった味を知らないと、なんでも調味料をかけただけのような、単一的な考え方になりがち。できる限り、時間のあるときはちゃんとしたものを食べるとか、そういったことは心がけています。

「住」に関しては、きれいにすることを心がけています。リラックスできる場所にしたいな、と。なるべくそういう空間を維持して、自分が楽になれて、心を放つことができるようにしています。

ちゃんと向き合うように読書を

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―深呼吸できるような空間ということですね。では、自分の家で本を読むときに、お気に入りのシチュエーションはありますか?

辻山 最近結構忙しくなったので、実は家でちゃんと読めていないのですが、机に向かって、ちゃんと座って読むのが好きです。横になってごろごろしながら本を読むのもいいのですが、絶対に途中で寝てしまうので。

本と向き合うように、コーヒーを飲みながらダイニングテーブルで読むのが一番好きですね。午前中が好きです。一番、頭がクリアな時間ですし。

―ちなみに午前中というのは、ひと仕事終えてからの時間帯でしょうか?

辻山 はい。ひと仕事終えてから、ですね。10時とか11時とか、ブランチの時間帯です。コーヒーを飲みながらちゃんと読書するひとときが、好きです。

―辻山さんがプライベートで飲むとき、コーヒーのこだわりは、ありますか?

辻山 気持ちが落ち着くので、できれば自分でドリップしたいなと。時間があるときは丁寧にゆっくりとコーヒーを淹れることにしています。ただドリップしかないと窮屈になってしまうので、朝10分しかないときはインスタントコーヒーにすることもあります。

―Titleをこんなお店にしたいという想いは、ありますか?

辻山 こういったことを必ずやりたいというのは、特にないのです。というのは、お客さんと一緒に作っていくものだと思っているので。ですから、お店を続けていくことが目標です。続けているうちに、少しずつお店は変わっていくのではないでしょうか。

この店を、「いれもの」みたいにしたかったのです。お店の名前もそうですが、強いメッセージを込めるというよりも、続けていくうちにお客さんがこういう店だなと思ってもらえ方がいいので、シンプルなものでいい。深い意味を持たせるというより、なんでもない言葉のほうがいいかな、と。

―いれもの、というたとえが、素敵ですね。どんないれものになるかは、1人ひとりのお客さん次第なのですね。今日はありがとうございました!

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ちなみに、「Title」の奥にあるカフェで飲むコーヒーとフレンチトーストは絶品。お立ち寄りの際はぜひ、食べてみてくださいね。

インタビュー中、何度となく「ちゃんと」という言葉を使う辻山さん。彼のそんな想いは、お店の隅々まで行き届いている感じがします。なんだか、辻山さんのように、本たちがちゃんと座っているように見えてくるから不思議。Title、そしてその店主さんの生活には、私たちが日々忘れてしまいそうなものが、「ちゃんと」あります。そして、街の本屋さんは、やっぱり街にとって大事な存在なのだ、と改めて思わせてくれるのです。

今日という一日、そして今の気分にぴったりの「Title」、ここで見つけてみませんか?

本屋「Title」

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住所:〒167-0034 東京都杉並区桃井1-5-2
電話番号:03‐6884‐2894
営業時間:11:00 – 21:00
定休日:毎週水曜・第三火曜
公式ホームページ:http://www.title-books.com/

(取材・執筆/阿部裕子 カメラ・編集/岡田萌香)

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