日本映画黄金期の作品を満喫できる、風情豊かな映画館「ラピュタ阿佐ヶ谷」

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阿佐ヶ谷の街並みの中に、忽然と現れる森のような空間。丸みのある土壁のビル、風に吹かれ回転する風車、緑のツタがからまるエントランス…… 個性的でかわいらしい外観に、この建物は何だろうと足を止める人も多いはず。

この「ラピュタビル」は、映画館「ラピュタ阿佐ヶ谷」、芝居小屋「ザムザ阿佐ヶ谷」、フレンチレストラン「山猫軒」を備えた文化複合施設。CNN Travelのサイトでも「映画ファンにとっての楽園」と称賛されるように、海外での注目度も高い建物です。

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一般にイメージする映画館と違って、たたずまいもネーミングも神秘的な「ラピュタ阿佐ヶ谷」。その謎を解くために、支配人 石井紫さんにお話をうかがいました。

スターロードの路地裏に忽然と姿を現す、ジブリを思わせるデザイン

―名前も建物そのものも宮崎駿監督のアニメを彷彿とさせる幻想的なものですが、いわれをお聞かせください。

石井 「ラピュタ」の名前は、『ガリバー旅行記』に登場する、飛ぶ島からだそうです。建物は、「縄文杉の切り株」をイメージしてデザインしたもの。アニメーション専門館として1998年11月に幕を開けました。

―「縄文杉の切り株」とは斬新な発想ですね。

石井 「縄文杉のように根を張り、伸びやかに成長しながら、ゆるやかに人々が集う場所でありたい」との考えがベースになっています。イメージだけではなく、淡路島の土で作られた壁、日本各地から集めた鉄道の枕木を使った階段、古木材を使った劇場の柱など、実際に天然素材にこだわってつくられているんです。

―だからなのでしょうか。昔からずっとここにあって、いつ来てもいつも同じように迎えてくれるような、懐かしい感じがします。

石井 私がここに勤め始めてから13年経ちますが、敷地の木々も成長し建物を覆うようになりましたし、土壁も風雨にさらされてだいぶ味わい深さが出てきましたね。いい意味で時間の経過を感じとっていただけるのも、「ラピュタ阿佐ヶ谷」の魅力なのかなとも思います。

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▲映画館「ラピュタ阿佐ヶ谷」に隣接する「小劇場「ザムザ」と、レストラン「山猫軒」。「ザムザ」は、カフカの小説「変身」から、また「山猫軒」は、宮沢賢治の「注文の多い料理店」から拝借したそう。

日本映画専門の映画館としてのこだわりと矜持

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―もともとはアニメーション専門舘だったとのことですが、現在では日本映画に絞った上映で人気を誇っていますね。

石井 時代の流れで、銀座の並木座や池袋の文芸坐といった名画座の閉館が相次ぎました。それを目のあたりにしたオーナーが、「日本でありながら日本映画の名作を上映する名画座が消えて行くのは辛い」との思いから路線変更し、2004年頃から、アニメーションに加え日本映画の作品も選定するようになりました。現在は、1950-60年代(昭和20年代中頃から40年代中頃)の作品を中心に上映しています。

―上映作品の選定はどのようにされているのですか?

石井 映画を見ている中で次の企画を思いつくことも多いです。観客席の反応がダイレクトにわかりますから。その一方、長年仕事としてやっている中で、映画のことも、これならお客さまに来ていただけるという企画の立て方もわかってきました。でも、受ける企画ばかりやっていると広がりがなくなってしまいます。わずか48席のミニシアターだからこそ冒険ができる。それが「ラピュタ阿佐ヶ谷」の強みだと思います。

一例として、現在、レイトショーでは、渡辺護監督1人の作品の上映を4ヶ月という長期にわたって上映しています。どうせやるならきっちり作品をお見せしたいとの思いからです。

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―上映作品の間、次回上映作品がアナウンスされる館内放送もユニークな演出ですね。

石井 映画会社から送られてくるプレスシートというものがあって、映画館が上映映画を紹介するために必要な資料が細かくまとめられていました。昔はいわゆる「幕間い」と呼ばれる時間に、このプレスシートをもとに館内放送で次回上映作品をお知らせしていたんですね。この当時の「放送原稿」をベースに少しアレンジした内容を、柳沢真一さんという名優にお願いして、流しています。他の映画館では類がなく、「ラピュタ阿佐ヶ谷」のみの「お耳拝借予告篇」という企画です。

―「お耳拝借予告篇」も、かつての名画座の名残というわけですね。

石井 はい。たとえば上映が終わった瞬間、場内で自然に拍手が湧き上がる時があります。名画座だとよく見られる光景なのですが、それは私にとっても、おそらく観客の方々にとっても、幸せのひとときでもある。そうした古き良き、銀座並木座や三軒茶屋スタジオなどの名画座ならではの文化を継承しつつ、日本映画のフィルム上映にこだわる映画館でありたいと思っています。

阿佐ヶ谷の街にさらに根づくようにー今後の展望

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▲昨年4月秋には、近所に姉妹館「ユジク阿佐ヶ谷」もオープン。こちらは、準新作やアニメーション、邦画洋画問わず上映。客層は20代が中心で、「ラピュタ阿佐ヶ谷」とは住み分けがされている。ちなみに、「ユジク」とは、ロシアのアニメーション『霧の中のハリネズミ』に登場するハリネズミの名前。

―「ラピュタ阿佐ヶ谷」は、区内で唯一の映画館になりますが、そもそも映画館を建てるにあたり、なぜ阿佐ヶ谷という街を選んだのでしょう?

石井 1982年に遡りますが、ラピュタビルのオーナーが、このすぐ近くに出版社「ふゅーじょんぷろだくと」を設立したことがきっかけです。オーナー自身は漫画家の永嶋慎二氏の大ファンで、そのため同氏の漫画に描かれる阿佐ヶ谷に対して強い思い入れがあったそうです。阿佐ヶ谷はずっと憧れの街であり、聖地のような存在だったと聞きます。

―お客さんは、やはり区民の方が多いのでしょうか。

石井 もちろん近隣のお客様も多いですが、かなり遠くから来られる方もいます。私が勤め始めた2003年頃はシニアのお客様が多かったのですが、名画座「シネマヴェーラ渋谷」ができたあたりから、30代位の若いお客さまも増えたような気がします。若い方が集まる渋谷に名画座ができたことで、旧作に関心を持つお客様が増えたように思います。

以前は、リアルタイムで上映された映画を懐かしさから再度観に来られる年配の方も多かったのですが、最近はそうでもありません。ほとんどのお客様はラピュタシネマクラブ会員になっておられるため、割引がある水曜日が突出して混むといったことも特にありません。年間通して通われるといった日本映画ファンが主ですね。

―今後、「ラピュタ阿佐ヶ谷」はどのように変化していくのでしょうか。

石井 大きくは変わらないと思います。阿佐ヶ谷という土地は、小劇場や地域のイベントも多く、「肩肘張らず、自然体でいられる街」。銀座や新宿とも、隣駅の高円寺とも荻窪とも異なる、ありのままにくつろげる良さがあると思います。「ラピュタ阿佐ヶ谷」は、そんな阿佐ヶ谷のような場所にしていきたいですね。

―「阿佐ヶ谷のような場所」とは。

石井 この阿佐ヶ谷の飾らない街並みのように、これからも今の形態を変えることなく、私たちも自然体で、丁寧に、古い日本映画を上映し続けていきたいと思っています。映写機のメンテナンスや部品の確保など、現状維持が難しくなりつつあるのが現実ですが、若い方たちにもフィルムの良さを知ってほしいので、いろいろな方が気負わずに遊びにこれる場所でありたいということです。

そうして日本映画の文化をこの阿佐ヶ谷の地に根付かせていきながら、その魅力を発信し続けていきたいですね。地に深く根を張り、伸びやかに成長していきながら、ゆるやかに人々が集う縄文杉のように。

ラピュタ阿佐ヶ谷

住所:東京都杉並区阿佐谷北2−12−21
TEL:03-3336-5440
公式サイト:http://www.laputa-jp.com/

料金:一般1,200円
シニア・学生は1,000円
会員は800円

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