杉並区からのオーダーは「架空の生き物を描いてください」だった?!デザイナーの五味由梨さんが語る、なみすけ誕生秘話

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くりくりとした瞳に、特徴的な緑の背びれ。短い手足。

杉並区に住んでいる人なら、誰もが一度は目にしたことのある愛らしいキャラクター「なみすけ」。
地域への愛着を深め、杉並の魅力を発信する「すぎなみの輝き度向上」運動の一環として、2006年に公募により制作されました。

このキャラクターをデザインしたのは、グラフィックデザイナーである五味由梨(ごみゆり)さん。東京藝術大学在学中になみすけをデザインし、以来10年にわたり、イラスト作成やキャラクターグッズの監修などに携わり続けています。

自身の生み出したなみすけを「パートナーのような存在」と語る五味さん。その言葉の裏には、どんなエピソードや愛情が秘められているのでしょうか。

現在は中米にお住まいの五味さんに、電話インタビューでお話を伺いました。

「杉の並木を背負っているキャラクター」というコンセプトが、全ての出発点だった

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▲五味さんが過去の案件で制作したデザインラフ。手書きの温もりあるキャラクターが愛らしい。

―なみすけは、五味さんが大学在学中にデザインし、応募されたとか。

五味 当時はデザイン科に在籍していて、大学で出される課題を日々こなしていました。けれど、課題はそのままだと学内だけで完結してしまいます。デザインは世の中で使われてこそ意味があるので、学生のころはコンペなどを通して、作品が世に出るチャンスを探していました。そんなあるとき、杉並区で公式アニメキャラクターを募集していることを知ったんです。

ちょうど杉並区に住んでいたこともあって、「これは応募しなくちゃ」と思い、学食でスケッチをして、覚えたてのmacでデータを作りました。

―おお、世に出るチャンス到来ですね!それが、なみすけのデザインに着手したきっかけだったと。

五味 はい。実はその募集要項に書かれていたデザインの条件が「架空の生き物」っていうテーマだったんです。

―それ、テーマが自由すぎて、逆に何をしたらいいか困るやつですね(笑)。

五味 そう、「どう手をつけたらいいんだ!」と思ってけっこう悩みました(笑)。

そこでどんなコンセプトにしたかというと、「杉並区だから、背中に杉の並木を背負っているキャラクターにしよう」と考えたんです。杉並区って東京都のわりに自然も豊かだし、そういう意味でもマッチしているんじゃないかなと。それを出発点にして、なみすけのデザインが始まりました。

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▲応募前に五味さんが作成したデザイン案の数々。まつ毛が長かったり、頭に飾りがついていたりと、現在のなみすけとの違いが見受けられます。

―なみすけの背中にあるヒレのようなものは、杉の並木がモチーフになっていたのですね。

五味 そうなんです。そして、初期のころは体が長いから6本足にしていたりもしたんですけど、「6本足だと、虫っぽくて、どうかなぁ」と思ってボツにしました(笑)。そうしてだんだんと、現在のような姿のなみすけになっていったんです。

見事、最優秀賞受賞!そこから現在に至るまで、描きあげたイラスト総数はなんと約200点!

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▲杉並区の広報や施設などで使われた、なみすけと妹のナミー、なみきおじさんのイラスト。用途に合わせて、様々な衣装を着たり、ポーズをとったり。

―そして、応募したなみすけのデザインが見事、最優秀賞に選ばれたと。

五味 はい。当時はまさか自分の描いたキャラクターが選ばれると思っていなかったので、本当にびっくりしました。

実はその後、「プロのイラストレーターの方かデザイナーの方に依頼して、キャラクターグッズなどの展開をする」という計画だったそうで。なみすけは私の手を離れてしまう予定だったんです。

―えっ!せっかく自分で作ったキャラクターなのに、それは寂しいですね。最終的にその話はどうなったんですか?

五味 「なみすけの原画がちょっと独特すぎる」という話になりまして、うやむやに……。それで、杉並区に住んでいて、美大生でもあった私に「今後、なみすけに関するデザインやイラスト作成などをやってみませんか?」という声がかかり、引き受けることになったんです。

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▲なみすけ初期の頃に、五味さんがパッケージデザインや商品デザインを手がけた各種グッズ。

―これまで、だいたいどれくらいの数のイラストを作成されてきたんですか?

五味 200点くらいは納品してきたと思います。

―200!ひとつのキャラクターに関連して、それだけの実績があるというのはすごいことですね。

五味 おかげさまで。それこそ、杉並区で発行される広報誌から、駐輪場にあるイラストまで、たくさんの作品を描かせてもらいました。自分の作ったものが、区の人々の暮らしに根づいてくれているというのは、本当に嬉しいことですね。

中米に来たからこそ分かる、日本人の持つ繊細な色の感性

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▲五味さんによる、中米で見た動植物のスケッチ。その腕前はさすがの一言。

―ちょっと話が変わりまして、2015年から中米にお住まいだそうですが、中米と日本との違いってどのような部分がありますか?

五味 人々が好む色合いが中米と日本ではすごく違うなあ、というのを感じています。

―ほうほう。具体的にはどういうことですか?

五味 日本人って、「紫色」と「藤色」のように、「同じ系統の色なんだけど、微妙に違う色合い」みたいなのがすごく好きじゃないですか。

けれど中米ではあまりそういうのがウケなくて、「真っ赤!」とか「ピンク!」みたいな、分かりやすく鮮やかな色のものが好まれるんです。一方で、細かい色の違いにはあまり気づいてもらえないことが多いですね。

―へえー!不思議ですね。その違いってどうして起こるのでしょうか。

五味 おそらく、四季の変化が影響していると思うんです。私の住んでいる場所は、雨季と乾季があるとはいえ1年中ずっと安定して温暖な気候なんですよ。一方で、日本では四季があって、それに伴って空の色とか草花の色が、毎日少しずつ変わっていくじゃないですか。

そういう環境で暮らしてきたからこそ、色に対する感覚が備わっているというか。「繊細な色の違い」みたいなものにすごく敏感なんじゃないかなと。

―なるほど、納得です。海外に住んだからこそ、日本人が持っている色の感性に気づけたのですね。

五味 はい。中米は日本からは遠いのであまり知らない場所でしたが、このように新鮮な経験をし、異なる文化に触れることができました。 海外に暮らした経験が、これからの制作に役立つといいと思いますね。

シンプルだからこそ、長く愛される

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▲なみすけの活躍は、日本のみならず海外にも飛び出しています。写真は、『国際交流基金による海外巡回展「キャラクター大国、ニッポン」』という展覧会で、日本を代表するキャラクターのひとつとして世界各地に展示されたときの様子。「海外でなみすけを見たときは感慨深かった」と五味さんは語ります。

―最後になりますが、デザインのお仕事において大事にされているのはどんなことでしょうか?

五味 デザインって、「情報を整頓して分かりやすく伝えること」が大事なので、なるべくシンプルなものの方がいいと思っているんです。「多くの人に受け入れられる」ことが重要だというか。

作者のクセが強すぎるデザインって、好きな人もいるけど、拒否反応が起こる人もいるじゃないですか?毎日みんなの目に触れるデザインの場合は、そういうものでない方がいいと思うんです。

―あくまで、日常の中に溶けこんでくれるのが大事なんですね。

五味 そう。例えるなら「白いご飯」みたいな(笑)。

白いご飯って、毎日食べても飽きないですよね。あれって、味がシンプルだからこそ、ずっと食べても飽きないんだと思うんです。デザインも同じ。万人に愛されるし、シンプルなんだけど、お米の旨味のように少しだけ作者の個性がにじみ出ている。そんなデザインこそが、長い歳月を経ても生き残っていくんじゃないでしょうか。

―なんだか、なみすけがずっと愛され続けている理由が分かった気がします。あのキャラクターには、五味さんのデザイン哲学がにじみ出ているんですね。

五味 そうなっていると嬉しいです。

なみすけが誕生してから今年で10周年。10年間はあっという間でしたが、そのあいだに愛着を持ってくださる方も増え、地元にすごく根づいてくれました。町や電車で、なみすけグッズを身につけてくれている人を見つけたときは、作ったものが誰かの支えになっているかもしれないと思えて本当に感動します。

―もはや、なみすけは杉並の住民にとって、無くてはならないものになっていると思います。

五味 なみすけを気に入って応援してくださる方がいるから、なみすけは存在することができています。学食で描いていたころからは想像できないほど多くの方々に関わっていただいて、また区役所の歴代の担当の方々からも厚いサポートをしていただいたことに、心からお礼を言いたいです。

見るとホッとしていただけるようなキャラクターを目指して、これからも制作していきたいですね。

五味由梨

Webサイト:http://www.yurigomi.com
プロフィール:
東京生まれ。
2006年、杉並区の公式キャラクターの公募で「なみすけ」が選ばれ、以降、関連グラフィックとグッズの制作・監修に携わる。
2009年、東京藝術大学デザイン科卒業。同大学院視覚伝達研究室修了、英国UCA芸術大学院修了。
以降、東京のデザイン事務所に勤務し、広告、企業のロゴデザイン、商業施設の館内装飾、パッケージデザイン、ノベルティグッズの制作等に携わる。2015年よりフリーランスのグラフィックデザイナー。

なみすけ

なみすけはスギナミザウルス島に住む
恐竜のような妖精です。
ある日、船に忍び込んだことがきっかけで東京湾にたどり着き、
故郷に似た緑豊かな杉並区に住み着きました。
杉並の町並みを歩いてみれば、
散歩が大好きな「なみすけ」に出会えるかもしれません。

性格 好奇心旺盛、ほがらか
好物 おいしい空気、りんご
趣味 散歩、人間観察
特技 背中のひれで空気をきれいにすること

(取材・執筆/中薗昴)

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