著名人にも愛されてきた老舗古書店「竹中書店」【秘蔵の1冊、見せてください!第5回】

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荻窪駅南口仲通り商店街に端然とたたずむ「竹中書店」。繁華街にあって、そこだけ切り取ったかのように静かな空気が流れます。

店頭には多様なジャンルのお買得本が色とりどりに並び、足を止めてのぞきこむ通行客が後を絶ちません。一方、お店に入って右側の壁際は「竹中書店の顔」ともいうべきコーナー。箱に入った学術書を中心に、社会・経済・歴史・法律などのジャンルが、レジ横まで整然と並びます。お目当ての専門書を探し熱心に見入る方の姿も。

長年、荻窪の地で店を構えてきた三代目店主の竹中和雄さんにインタビューし、この店が愛され続ける理由を探りました。

コレクター垂涎、世界に1冊しかない装丁本

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―「秘蔵の1冊」を挙げていただけますか?

竹中 どの本にも愛着がありますが、強いていえば、装丁本の「上田敏詩集」でしょうか。

―金で縁取られた革張りの重厚な外装が素敵です。

竹中 多くの外国語に通じ、美しい翻訳詩で明治期の詩壇に新風を巻き起こした詩人上田敏の作品集です。「山のあなたの空遠く 『幸』(さひはひ)住むと人の言ふ」(カール・ブッセの「山のあなた」)などの名訳が有名ですね。

―訳詩集「海潮音」などを装丁したものですね。

竹中 「海潮音」は1905年(明治38)に本郷書院から刊行されました。英、独、伊、プロバンスなどヨーロッパの詩人29人の作品57編が収められています。日本の象徴詩の先駆といえるでしょう。ベルレーヌの「落葉」、ブラウニングの「春の朝(あした)」など馴染みがある作品も多いと思います。

この装丁本には、「海潮音」以後のいっそう柔軟な訳詩を収めた翻訳詩集「牧羊神」なども収められています。読みごたえのある1冊です。

―「1冊」として特に選ばれた理由を教えていただけますか。

竹中 上田敏の初版本という貴重さに加え、金張りまでほどこした丁寧な装丁がなされ、「自分でつくった」という持ち主のこだわりと愛情が感じられることでしょうか。

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―見渡すと、店内には同様の装丁本が多く見受けられます。普通の書店ではなかなか目にすることのできない光景。「このお店だからこそ正当に価値を評価してくれる」と信頼されて持ち込まれるのでしょう。

明治37年創業。昭和21年に移転し、荻窪を見つめ続ける。

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―荻窪の商店街に溶けこみ風情を醸し出しているお店ですが、歴史をお聞かせください。

竹中 明治37年に新宿区牛込で先々代が開業したのが店の始まりです。昭和21年に先代が荻窪へお店を移し、昭和37年に現在の地に移転しました。荻窪で足かけ70年の歴史となります。

― 一言でいうなら荻窪はどんな街でしょう。

竹中 「地に足をつけて住んでいる人が多く、住みやすい街」だと思います。

―商店街の中にあって他のお店とは一線を画した重厚感が感じられます。

竹中 この仲通り商店会のモットー自体が「お客と店舗の相思相愛」で、人情味に満ちている通りです。その中に1軒はこういった店があった方がいいという声が聞かれます。商店会長からも「商店街の重しになるという価値がある」と。テレビでも「昔ながらのこういったお店は今時希少価値」「荻窪らしいお店」と紹介されました。

―荻窪の南口といえば、個性的な3軒の古書店が至近距離にあることで知られます。

竹中 3軒それぞれに特徴があり、ライバル意識というよりも、「共存共栄」しています。以前の荻窪には、タカタ文庫や常田書店などもっと多くの書店が軒を連ねていましたが、看板を下ろした所も多く、今の状態で落ちついています。

―客層はどういう方が中心なのでしょう。

竹中 戦前から荻窪には居を構える軍人の方が多く、それらの方の利用にあずかってきました。また文筆家や学者の方もよくお見えになりました。井伏鱒二氏、徳川無声氏にも度々足を運んでいただきました。その他にも、音楽評論家の大田黒元雄氏、角川書店の創業者である角川源義氏、フランス文学者で評論家の河盛好蔵氏、児童文学作家で翻訳家の石井桃子さんなど。そういったお客さんの力で成り立ってきましたし、この店の個性ともいえます。

現在は、中央線沿いにキャンパスを構える大学の先生方もよくお越しになります。歴史的資料を求める方が多いですね。

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―箱入りが多く整然とした陳列が、「折り目正しい」印象を与えます。本の品揃えを具体的にお聞かせください。

竹中 多いのは学術書・研究書です。歴史書・哲学書も豊富に取りそろえています。全体の品揃えは約30,000冊でしょうか。哲学書などの売れゆきは芳しくありませんが、あまり人間が「考えこまない」今という時代の表れと思っています。

―こだわりをお聞かせください。

竹中 店頭に並べず店の奥に置いているのは一般的に見れば売れそうもない品ですが、求めがあれば「こういうものもある」と出します。ゴミとするか宝として見るかは人次第ですから。初版本など珍しい物もありますが、業者に無造作に売るよりも、「以前からこの本を探していて、ここでやっと巡り会えた」という熱心な方に譲りたいと思っています。歴史を抱えてこの店にやって来た本たちとの「巡り合わせ」を大事にしたいのです。

―単なる商品としてではなく、本を心から慈しんでいる姿勢が伝わってきます。

竹中 中身がしっかり研究されている、1つのことをつきつめて考えている、といった本を大事にしたいと考えています。単に売るだけなら簡単な方法もありますが、この店も古いですし歴史的な価値を大事にしようと。そういう考えから、一見売れそうにないものも置いているわけです。3代目の矜持といってもよいでしょう。

もっともこれはあくまで私の代についてであり、代替わりしたら絵本を売ろうが小説を売ろうが、そのときの主人が考えればよいと思っています。今は本が売れる時代ではないですから、商売として子ども世代が継ぐのがよいかどうかもわかりませんが。

ただ本は、我々にとっては単なる売り物ではなく貴重な財産です。こういった考えから、ネット販売も行わずすべて対面販売です。

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―対面販売といえば、購入した本にかけていただけるカバーも、昔から変わりませんね。定評があります。

竹中 50年前から変わらず使用しています。「鳥獣戯画」のデザインで、本のサイズによって絵柄の異なる3種類を用意しています。レトロな可愛らしさからか、この紙が欲しいとわざわざお求めになる方もおられます。

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インタビューの合間にも、ご店主夫妻との会話を楽しみに常連客がひきもきらず訪れます。お二人の穏やかな人柄が心地よい雰囲気を醸し出しており、言葉の通り店内の1冊1冊が、普段ページを無造作にめくるだけの本とは異なり、輝きを帯びて見えてきます。自分にとっての「珠玉の1冊」探しに時間を割いてみてはいかがでしょう。

竹中書店

所在地:東京都杉並区荻窪5-21-12
TEL:03-3391-7229
営業時間:10:00~21:00
定休日:火曜日
ホームページ:http://ogikubo-nakadori.com/%E7%AB%B9%E4%B8%AD%E6%9B%B8%E5%BA%97/

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