こだわらない、にこだわる旅の情報発信地「旅の本屋のまど」【秘蔵の1冊、見せてください!第3回】

のまど
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西荻窪駅北口を出て左折し、伏見通りを進むこと約5分。鮮やかなブルーのふちどりが印象的な「旅の本屋 のまど」が姿を現します。

店頭には素敵な古着類が。店内に入ると、新刊・古書がコーナーをはじめとし、アジア・ヨーロッパ・中南米といった地域別に整然と並びます。音楽、映画、思想、料理、宗教など、さまざまなジャンルから「旅」を感じさせてくれるセレクション。外国のポストカードやTシャツ、古地図、地球儀などもディスプレイされており、お店全体が旅のテーマパークのような装いです。

オンライン通販も行い、また月に約1回の割合で定期的に新刊記念イベントなども開催している同店。英語で「遊牧民」を意味するという「のまど」は、その名の通り、何にも縛られない自由な発想で旅に関わっている書店です。

「のまど」秘蔵の一冊だけでなく、旅の情報発信地ともいうべきお店のこだわりについて、店主の川田正和さんにお話をうかがいました。

こだわりの1冊は、青春時代の思い出「深夜特急」

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深夜特急シリーズ
著者:沢木耕太朗
出版社:新潮社

―どの本も宝物だと思いますが、特に「秘蔵の一冊」を挙げていただけますか?

川田 沢木耕太朗の紀行小説「深夜特急」でしょうか。個人旅行記というジャンルを超え、バックパッカーの方にとってはバイブルともいうべき本です。

―選ばれた理由は何でしょうか。

川田 自分が海外に多く旅行するきっかけとなった本であること。そして、個人的に沢木さんのファンである、という2点でしょうか。

―旅先の情報はネットで容易に入手可能な時代ですが、この体験談以上に「旅へ出たい」という憧れをかきたてるものは、なかなか見当たらないように思います。

川田 1980、90年代の日本における個人旅行流行の一翼を担った本です。旅行ガイドブック代わりにはなりませんが、1970年代前半当時の交通事情や宿泊事情などを知ることができます。途上国の貧困さについても触れられており、考えさせられるところの多い本です。

―世界40ヶ国以上をこれまでに回られたそうですが、その原動力になったということですね。

川田 小さいときから地図を見るのが好きで、大学でも地理を学んでいたほど、未知の場所に興味がありました。バックパッカーの旅に実際に夢中になったのはこのシリーズがきっかけです。

―JTBの「旅の本屋 のまどのおすすめの10冊」でも、この本を挙げられていますが、そういったご自身の経験があるからこそ説得力があります。

丁寧な時間をかけて実現した、「旅」にかける夢

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―本屋さんを開業する前は、ライターご志望だったのでしょうか。以前はブログでも積極的な情報発信を行っておられ、面白く読ませていただきました。

川田 書くことは昔から好きでした。漠然と「旅を書く仕事ができれば」と思い、実際、出版社にも就職したのですが、色々な理由から3ヶ月位で辞めました。文章を書いて、「自分をさらけ出す」ことにはあまり向いていないように感じたのも一因です。

―川田さんと書店との最初のつながりを教えてください。

川田 出版社退職後は、バイトをしては旅に出る生活を送っていました。自分探し、というか、自分に何の仕事が向いているのかな、というのを、繰り返し旅行しては考えるような感じでした。

旅先のアメリカやヨーロッパの各地で「travel book store(旅の本屋)」があって。小さい街でも役立っているのを目にして、日本でもこういう本屋をやりたいと思うようになりました。アジアの書籍だけを扱っている神保町の本屋さんから、「まず書店業界で経験を積んだ方がよい」というアドバイスを受け、リブロに就職したのが20代後半のことでした。

それからしばらく書店勤務を続けましたが、7~8年くらい経ち、30代半ばに達しながら、初心を忘れて日常生活に埋もれている自分に気づきました。そこで「旅の本屋」という観点から、決意を新たにして勤務先を探し始めたとき、吉祥寺にある「のまど」の店長職を知り、応募して転職しました。2003年のことです。

―スタートは吉祥寺だったのですね。西荻窪に移転するきっかけは何だったのでしょう。
 
川田 2007年、オーナーが突然、閉店を宣言したのです。

その頃には、自分で「旅の本屋」を切り盛りするイメージができつつあったので、のれんを引き継がせてもらって、自分でやることになりました。店名については、「旅の本屋にこんなにぴったりの名前はない」と思い、オーナーから受け継ぎました。

ただ吉祥寺は、私の感覚としては街として大きすぎました。「自分の店を開くなら吉祥寺より手前の中央線沿線のどこかで」と思い、あれこれ物件を探しました。そんな中、ちょうど今の場所で営業されていたブックカフェ「ハートランド」が店を閉めるという話を聞き、「ここでやるしかない」と。今の場所に移転して、独立したのが2007年の7月15日です。

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―「ハートランド」もブックカフェの先駆けとして大変有名なお店でしたが、引き継ぐにあたっては相当手を加えられましたか。
 
川田 両側の背の高い棚やお手洗いなど、基本的にはそのままです。天井の補修や入口のペンキ塗りなどは自分で行いました。

―西荻窪と吉祥寺とでは、客層も大分異なるのではありませんか。

川田 開店前は、「近くに東京女子大があるから、学生が買ってくれるかな」と思っていましたが、その予想は大きく外れ、むしろこの街に住む人が主な購入者です。

この街には、古本屋やカフェが多かったり、アンティーク・ショップも数十軒あります。マップまで作成したりするなど、小さいながらも特徴のある店が居心地よくやっていける雰囲気が良いですね。そんな街の温かさに支えられているのを日々実感しています。チェーンや大手本屋が少なく、のんびりした感じも特徴的です。東京でありながら、ゆるさを保っている希有な街だと思います。

また最近では20代のカップルなど若い人が、週末に、雑誌などで西荻窪を知って訪れるケースが増えています。土日になると遠方から、本屋めぐりやアンティーク・ショップめぐりをしに来る女性も多いですね。

「こだわらないこと」にこだわる、こだわり

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―書店で「旅」というコーナーへ行くと、ガイドブックがずらっと並んでいるのが通常ですが、このお店では、壁一面の本棚に、旅を切り口として様々な角度から集めた本がぎっしり詰まっています。写真集やエッセイ、料理本まで、古本も新刊も混じり、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさにあふれていますね。

川田 この店の特徴を挙げるとすれば、まず、「旅」というキーワードに引っかかるようなもの。例えば音楽、料理、スポーツ、建築といった、旅先で見たり体験したりするもの。そういう品を置くようにしています。

それから、古書も新刊も区分せずに置いています。探す側からすると、古本とか新刊とかはあまり重要ではなく、自分の欲しいジャンルの本が見やすく置いてあることが大事ですから。他のお店ではあまりやっていないかもしれませんが。

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―現在の「旅の本屋」という形態は、東京でもまだまだ稀ですが、川田さんにとってはどのような位置づけでしょう。

川田 昔から旅に関わりたいと思っていましたが、自分としては、本屋というのも、旅に関する表現の1つではないかと思っています。(旅する人に)「場所を提供する」という意味で、ダイレクトに情報発信できる面白さがあります。

―映画「ノッティングヒルの恋人」で登場した「THE TRAVEL BOOKSHOP」、1853年設立のロンドンの老舗「Stanfords」など、海外では「のまど」のような本屋が有名ですが、そういった海外のお店にも倣っているのでしょうか。

川田 この店では、ジャンルなどは特にこだわりなく「旅に関係あるものを手広く置く」というスタンスでやっています。「こだわらないことにこだわる」というのでしょうか。旅をキーフレーズに来てくれたお客様が、ここで何かを感じてもらえたらいいな、と思っています。

旅先の意外な一面を発見するとか、ここに来たことがきっかけで旅に行きたくなったとか、行ってきた旅を思い返してみるとか、そういう場として自由に使ってもらえたら嬉しいですね。

―今後の「のまど」は、どのように変化を遂げていくのでしょう。

川田 本メインで続けていくのは将来的には少々しんどいかなと感じています。「旅行をキーワードにしたスペース」というコンセプトで展開していこうかと考えています。具体的には、カフェやゲストハウスを併設する、などです。本屋の負担を軽減しつつ、本屋と宿泊施設が一緒になった新たなスペースが出来たらなあ、 とイメージを膨らませています。

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615号を迎えた(7月8日時点)メルマガ「のまど通信」も、イベント情報や入荷本の紹介など毎回充実した内容。お店のいきいきした雰囲気が伝わってきて、お店に足を運びたくなります。

ファンを惹きつける不思議な魅力に満ちた「旅の本屋 のまど」。これからの展開に目が離せません。

旅の本屋 のまど

所在地:東京都杉並区西荻北3-12-10司ビル1F
TEL:03-5310-2627
営業時間:12時-22時(月曜~土曜)、12時‐21時(日曜・祝日)
定休日:水曜日
ホームページ:http://www.nomad-books.co.jp/

(取材・執筆/山中悠)

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